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TAMARI Labでは下記テーマを中心に研究しています.
​① 脳の機能的解析(Functional Connectivity)
② 脳の構造的解析(Structural Connectivity)
③ 身体運動の3次元解析(Biomechanics)
④ 理学療法教育(Coopeerative Learning,Clinical Clerkship)

​Functional Connectivity

​脳内の機能的なネットワーク性を検討する画像解析手法の代表として,Resting state fMRIがあります.

従来のfMRIは課題遂行時の神経活動に伴うBOLD信号(オキシヘモグロビンの増加による核磁気共鳴信号の増強)を捕捉していましたが,Resting state fMRIは安静時に生じる0.1Hz未満の自発的なBOLD信号の揺らぎ成分を捕捉して各脳領域間の時間的相関関係を算出し,解剖学的に離れた領域間の相関を脳内の機能的なネットワーク性とみなすものです.

例えば,健常人の中心前回(運動野)は,同側の中心後回や対側の中心前回・中心後回,補足運動野などとの間に強いconnectivityが認められ,両側の脳が協調していることが分かります(Figure 1).

functonal connectivity healthy patient

Figure 1 健常人のFunctional Connectivity(Seed: 左側の中心前回)

近年では高磁場の3.0 Tesla MRIを用いた脳卒中患者のFunctional Connectivity解析において,損傷側半球の中心前回(運動野)と対側の視床および補足運動野のconnectivityが保たれた脳卒中患者は運動機能の回復が良好であり,6ヶ月後のFugle-Meyer assessmentとも相関することことが報告されています(Park, 2011).

また,一般の病院で頻用されている1.5 Tesla MRIを用いた我々の研究(Tamari, 2018)においても,運動機能の障害が軽度な脳卒中患者は健常人に類似したconnectivityを示し,運動機能の障害が重度な患者はconnectivityが減弱していました​(Figure 2).

functional connectivity patient

Figure 2 脳卒中片麻痺患者のFunctional Connectivity(Seed: 左側(病変側)の中心前回)

さらに,脳卒中患者の回復過程におけるFunctional Connectivityの経時的な変化を追跡した研究により,発症時に低下した両側の感覚運動皮質間のconnectivityが麻痺の回復とともに改善することや(Golestani, 2013),早期に回復する患者は回復が遅延する患者と比較して半球間のconnectivityが有意に強いこと(Jung, 2013)などが知られています.

​また,脳梗塞発症後にリハビリテーションの開始が遅延(23病日)した症例のFunctional Connectivityを縦断的に調査した我々の研究(Tamari, 2018)では,脳の構造的損傷がごく軽度であったにもかかわらず病変側の中心前回のconnectivityが著しく減弱していましたが,長下肢装具と短下肢装具を段階的に併用しつつ積極的なリハビリテーションを行った結果,運動機能や歩行能力の改善とともに,対側の中心前回や補足運動野,視床,両側の小脳といった体性感覚や運動制御を担う領域とのconnectivityが増強していました(Figure 3).

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【75病日】

【106病日】

【137病日】

【166病日】

【197病日】

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Figure 3 リハビリテーションによるFunctional Connectivityの変化(Seed: 左側(病変側)の中心前回)

​左図​:75病日 右図:137病日

Resting state fMRIは従来のfMRIのような課題設定が不要であるため,運動機能が不良な脳卒中急性期の患者も解析可能であるほか,デフォルトモードネットワークや注意ネットワークといった高次脳機能についても解析可能という利点がありますが,その一方で,MRI撮像時の体動や覚醒状態の影響を受けやすいため,解析結果の解釈には慎重である必要があります.

Laboratoryでは,脳損傷の程度(梗塞や出血の大きさ)とFunctional Connectivityの関係や,リハビリテーションによる変化などについて研究を行っています.

Structural Connectivity

​脳内の構造的なネットワーク性を検討する画像解析手法の代表として,Diffusion Tensor Imaging(DTI)があります.

DTIはmotion probing gradientという傾斜磁場を多方向に印加し,熱運動によりもたらされる水分子の拡散の方向と大きさを信号強度として画像化したものです.

水分子は神経線維のない部位では等方性に拡散しますが,神経線維が存在する部位では線維方向に沿って異方性に拡散するという特徴があるため,​DTIではこの異方性をfractional anisotropy(FA)という指標で定量することが可能であり,また,拡散の大きさについてもみかけの拡散係数(apparent diffusion coefficient: ADC)として定量することが可能です.

さらに,MRIの隣接ボクセルの異方性を一定条件下で連続的に追跡することにより,神経線維を仮想的に描出することも可能で,この技術は拡散テンソルトラクトグラフィー(Diffusion Tensor Tractography: DTT)と呼ばれています(Movie 1).

脳梗塞や脳出血により脳の神経線維が損傷するとFA値が変化するため,DTTを用いて特定の神経線維群のFA値と運動機能の関係などを調査することにより,脳卒中後の運動機能の予後予測やより良いリハビリテーションプログラムの検討が行われています.

Movie 1 Diffusion Tensor Tractographyにより描出した神経線維群の例​

その一方で,神経線維束を描出するための関心領域(Region of Interest: ROI)をフリーハンドで設定する場合は,検者の恣意性の問題もあるため,複数回の解析後に定量値を平均化することが望ましいといえます.

 

また,DTTでは隣接ボクセルの追跡を中止する条件(主にFA値と角度)により定量値が大きく異なるため,解析する標的神経束に応じて適切な閾値の設定を行う必要があります(Figure 4, Table1).

​さらに,撮像時の傾斜磁場の数(MPG軸数)やスライス厚,追跡アルゴリズムの種類などによっても解析結果が変わるため,撮像条件や解析条件に留意して研究を行う必要があります.

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FA threshold 0.1

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FA threshold 0.3

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FA threshold 0.5

FIgure 4 FA thresholdによる描出軌跡の違い

Table 1 FA thresholdによる解析結果の違い

標的神経束を設定せず,多数の被検者の神経線維を探索的に解析することも可能です.

この手法はTract Based Spatial Statistics(TBSS)と呼ばれ,まず,すべての被検者のMRIデータの渦電流歪みを補正した後に全脳のFA像を生成し,非線形レジストレーションにより典型的なFAマップに合わせ込み,神経線維のスケルトンを作成します.

その後,各被検者のFA値をスケルトン上に投影し,統計学的に検定します(voxelwise analysis).

TBSSは集団解析の手法として精神疾患領域を中心に発展してきましたが,近年では脳卒中患者の病態理解やリハビリテーション効果の検討にも応用されており,​我々も脳卒中患者の神経線維と運動機能との関係を中心に研究を行っています(Figure 5).

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FIgure 5 ABMSⅡ得点が異なる2群間で差が認められた神経線維(上縦束)の例

​その他,全脳の領域間の構造的な接続性を解析するコネクトーム解析(Movie 2)などもあり,Laboratoryでは前述のFunctional ConnectivityとStructural Connectivityを併用しつつ,脳卒中患者やパーキンソン病患者の神経ネットワークの解析やリハビリテーションによるconnectivityの変化について研究を行っています.

​また,MRIだけでなく,研究目的に応じて脳波計(EEG)や光トポグラフィ(NIRS)を使用した研究も行っています.

Movie 2 Sebastian Seung: I am my connectome

​さらに,脳卒中患者の神経ネットワークの解析のみならず,もう一つの大きな研究テーマとして,パーキンソン病(Parkinson's Disease: PD)患者の中脳黒質の形態解析や脳白質のネットワーク解析にも取り組んでいます.

PDは黒質ドパミン神経の変性により,静止時振戦,強剛,無動,姿勢反射障害などを呈する神経難病ですが,MRIではPDに特異的な所見は無いと考えられてきました.

しかし近年,3 Tesla MRIを用いた神経メラニン画像(neuromelanin image: NMI)の有用性が注目されるようになり,NMIでは黒質緻密部のドパミン細胞中に存在する神経メラニンが高信号として描出され,PD患者では黒質緻密部に該当する領域の信号強度が低下することが報告されるようになりましたが,臨床現場で簡便かつ迅速に解析することは困難という問題点がありました.

そこで我々は,黒質緻密部に該当する高信号領域を便宜的に黒質体積として定義し,黒質体積を半自動的に定量するプログラムを開発するとともに,3 dimension(3D)法で撮像されたNMIを用いてPD患者と健常人の黒質体積を解析し,PDの診断のみならず病勢評価やより効果的なリハビリテーションプログラムの構築に寄与することを明らかにしました(Tamari, 2015.2018)(Figure 6).

​​Laboratoryでは,こうした解析プログラムの開発にも取り組んでいます.

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Figure 6 Parkinson病患者と健常者の中脳黒質の違い

(a)3D神経メラニン画像 (b)中脳の拡大画像 (c)黒質部分を描出した二値画像

Biomechanics

私達は自らの意図のもとに自由に身体運動を行っているように思われがちですが,実際には5つの拘束条件の制約を受けています.

①身体による拘束(主に筋や骨,関節の構造)

②力学法則による拘束

③コストの最適化による拘束

④環境による拘束

⑤環境による拘束

​そのため,身体運動を考える際にはこれら5つの拘束条件の観点から因果を推察することが必要です.

なかでも②の「力学法則による拘束」は,年齢・性別・場所を問わず常に等しい条件となることから,バイオメカニクスの観点から身体運動のメカニズムを捉えることは,運動障害を有する患者のリハビリテーションにかかわるセラピストにとって必須のスキルといえます.

Laboratoryでは,三次元動作解析装置(赤外線カメラ+床反力計)や加速度計を用い,健常人や脳卒中患者の各種身体運動の解析を行っています(Figure 7).

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Figure 7 三次元動作解析装置(赤外線カメラ)を用いた計測場面と解析結果の例

また,実際の臨床場面では,加速度計やGait Judge Systemなどを利用し,迅速かつ簡便に身体運動の計測を行い,科学的データに基づいたリハビリテーションプログラムの考案やその効果の検証を行っています(Figure 8).

特に下肢装具を利用した積極的な歩行練習は脳卒中ガイドライン2015においても推奨グレードAであることから,比較的簡便に計測可能な加速度計やGait Judgeを用い,適切な装具の選択に関する研究,装具を利用した歩行練習の効果検証などについて研究を行っています.

​長下肢装具は脳血管障害片麻痺患者の下肢支持性を補い,発症後早期から介助下にて対称的かつ交互的な歩行運動(練習)を実践できますが,場合によっては装具に依存し筋収縮が得られにくいこともあります.一方で,短下肢装具は長下肢装具よりも患者自身の下肢筋力が要求されるため,患者の筋収縮が得られやすくなる反面,姿勢制御の学習段階では対称性や交互性が損なわれることもあります.そのため,装具を「どのように使用するのか」という点についても,様々な取り組みと検証を行っています.

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Figure 8 Gait Judge Systemを用いた脳卒中患者の歩行解析の例

さらに,実際の理学療法場面におけるBiomechanicsの臨床応用についても検討しており,特に系先端方向制御(3対6筋協調制御)モデルについては積極的に臨床応用を図っています.

3対6筋協調制御モデルは,ヒト上下肢の拮抗二関節筋と両端の関節の拮抗単関節筋群の活動について,筋電図動作学的解析とロボット工学的解析を並行して行った結果に基づいて提唱された生体四肢運動制御モデルであり,このモデルは拮抗二関節筋と両端の関節の拮抗単関節筋群,合計3対6筋の拮抗筋群とその拮抗筋群の協調活動を単一の入力信号で実現できる神経回路網を含めた四肢運動リンク機構制御システムとして構築されています.

四肢の屈伸運動平面内にある筋,あるいは筋束を実効筋と定義し,二関節筋であるか単関節筋であるか,単関節筋であれば屈筋か伸筋かによって,機能別実効筋としてモデル化しており,下肢においては,拮抗二関節筋(f3)は大腿二頭筋長頭,半腱様筋,半膜様筋であり,(e3)は大腿直筋となります.また,股関節回りの(f1)は大殿筋,中殿筋,小殿筋,(e1)は腸骨筋,大腰筋となり,膝関節回りの(f2)は大腿二頭筋短頭,膝窩筋,(e2)は外側広筋,内側広筋,中間広筋によって構成されます.

これらの実効筋の出力によって作られる最大の出力分布は六角形であり,各拮抗筋が活動レベルを交代することで特定の領域の出力方向制御に貢献し,3対の拮抗筋群で360°,全方位にわたって出力方向制御に貢献していることが示唆されていることから,Laboratoryではこの理論に立脚した理学療法について検討しています.

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​熊本水頼.次世代ロボットが未来の豊かな生活をつくる.2004 より

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Figure 9 系先端方向制御理論(3対6筋制御モデル)を用いた理学療法の例

Education

Cooperative Learning

理学療法士を養成するための教育方法についても研究を行っており,特に学内教育ではICTと協同学習を併用した授業を行い,その効果について研究を行っています(Figure 10).

協同学習とは協同を学習指導の原理とする様々な実践的・理論的工夫に対する包括的な名称であり,「協力して学び合うことで,学ぶ内容の理解と習得を目指すとともに,協同の意義に気づき,協同の意義を磨き,協同の価値を学び,内化することを意図した教育活動(関田, 2004)」のことです.

協同学習による授業は伝統的な知識伝達型の授業に比べて大きな教育成果が期待できるとされ,大学生以上を対象とした305編の先行研究のメタ分析(Johnson,D.W et al. )においても,個別・競争学習に比べて学習成績,対人関係,心理的適応,大学への態度面で優れているとされています.

​協同学習は単に学習者をグループに分けて活動させるだけでは達成されず,以下の5つの基本要素が含まれていることが重要です.

①互恵的な相互依存(Positive Interdependence)

②対面的で促進的な相互交流(Face to Face Promotive Interaction)

 

③個人としての責任(Individual Accountability / Personal responsibility)

 

④社会的技能と小グループ運営技能の育成と活用(Interpersonal and Small Group Skills)

​⑤協同学習の評価(Group Processing)

​これらの基本要素を踏まえ,具体的にはThink-Pair-Share,Round Robin,Buzz Group,Jigsaw,TAPPSといった基本技法を用いつつ,さらに,ICTを積極的に併用することにより,予習・授業・復習の円環性が達成される授業づくりを実践しています.

文部科学省は,今後の教育改革が目指すべき方向性として「豊かな人間性」「健康・体力」「確かな学力」を総合した力である『生きる力』を育むことが重要であるとしていますが,その中でも「確かな学力」は「基礎的な知識及び技能」「課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力」「主体的に学習に取り組む態度」という3つの要素(いわゆる『学力の3要素』)に大別されます.

この『学力の3要素』を踏まえ,ICTと協同学習を併用した授業では知識の教授に偏重することなく,将来の臨床現場で必要となる思考力・判断力・表現力,さらには,医療専門職として生涯学び続ける態度やスキル,多職種と連携しつつチームアプローチを実践するための社会スキルなどを育むことを目標としており,実際に,これまでの実践的研究により,学習成績や学びに対する意欲,協同に対する意識などが向上することを明らかにしました(玉利, 2014.2017).

​Laboratoryでは,教育工学や教育心理学に関する研究も支援しています.

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Figure 10 ICTと協同学習を併用した授業の様子

Clinical Clerkship (CCS)

また,理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の学生の必修科目である臨床実習教育に関して,学習理論に基づいた診療参加型実習(clinical clerkship)の実践方法とその効果について研究を行っています(FIgure 11).

臨床実習では,対象者の検査・測定や問題点の整理,治療目標の設定,治療の実践,検証作業といった一連の過程を通して,医療専門職としてのスキルと素養(プロフェッショナリズム)を身につけることが目標となります.

CCSは臨床実習の目標達成のために効果的な教育システムで,「正統的周辺参加」「認知的徒弟制」「最近接発達領域」といった学習理論に立脚しており,学生は臨床教育者の助手として診療に参加し,指導のもと多くの実務を経験しながら学ぶ(on the job training: OJT)ことが基本となります.

■正統的周辺参加

 学習者が実践共同体の正式メンバーとして実際の活動に参加し,その参加形態を徐々に変化させながら,実践共同体の活動により 深く関与するようになる学習過程.

■認知的徒弟制

 学習者が教育者のデモンストレーションやコーチングといった支援を受けつつ,段階的な実践を通してスキルを修得していく学習過程.

■最近接発達領域

 自主的に解決される問題によって規定される現下の発達水準と,指導されたり仲間との協同の中で解決される問題によって規定される可能的発達水準との間の隔たり(領域)のこと.スキルは経験を通して現実のものとなり,経験は環境によって全体的に決定されているため,指導者の役割の本質は環境を組織化して調整することにあり,多様なツールに支援された協同活動や模倣が最近接発達領域を埋める力源となる.

我々は,指導者が学生の最近接発達領域を見出し,できることから段階的に学ぶための教育ツール(運動スキル版・認知スキル版)を開発し,ツールを用いた臨床実習教育の効果について明かにしました(玉利, 2016.2017.2018).

Laboratoryでは,臨床実習教育に関する研究も支援しています.

 

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Figure 11 Clinical Clearkshipによる臨床実習教育の様子