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JKA Social Action

2024年度 ​競輪とオートレースの補助事業 研究補助
「協調制御理論に基づいた協調性トレーニング支援システムの開発」

1.本事業の背景

1)脳卒中患者の協調運動障害について

脳卒中患者の特徴的な後遺症に麻痺側上下肢の協調運動障害がある。

脳卒中患者は運動麻痺によって精緻な運動制御が困難となるため、二関節筋を過剰に使用する傾向が強くなり、単関節筋と二関節筋の出力バランスが不均衡となって協調的な運動制御が阻害される。

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【脳卒中患者は特定の方向に対する運動協調性に問題を抱えている】

リーチ動作は全方向に障害されているのではなく、特定の方向に対して障害されている。麻痺肢の運動障害の原因は筋の麻痺そのものではなく、単関節筋と二関節筋の協調性の問題として捉えることができる。

(Levin MF. Interjoint coordination during pointing movements is disrupted in spastic hemiparesis. Brain. 1996;119(Pt 1):281-293.).​

Fig. 1 Diagram of the target positions (black circles) for reaching movements made on a horizontal surface. The starting position (small stippled circle) was located in the midline of the body. 

2)臨床的課題

 

単関節筋と二関節筋の出力比率を定量的に評価し、協調運動を再組織化する治療法は確立されていない。

そのため、電気刺激療法や促通反復療法などによって運動麻痺が改善しても、日常生活場面で麻痺肢を協調的に使用できず、日常生活能力の改善に結びつかない患者が多数存在している。

3)本事業の着想

 

3対6筋協調制御理論が協調運動障害を定量化しうる可能性がある。

3対6筋協調制御理論とは、ヒト上下肢の拮抗二関節筋と両端の関節の拮抗単関節筋群の活動について、筋電図動作学的解析とロボット工学的解析を並行して行った結果に基づき提唱された生体四肢運動制御モデルである(提唱者:熊本水頼)

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【下肢の理論の例】​

  • ​単関節筋と二関節筋の出力の組み合わせによって作られる出力分布は六角形ABCDEFとなる

  • たとえば、f1とe2による出力Ff1とFe2によって辺ABの中点への出力が可能となる

  • さらに、辺ABの中点から頂点Aの方向には実効二関節筋e3の出力Fe3が、頂点Bの方向には実効二関節筋f3の出力Ff3が作用することによって、出力分布の辺ABが構成される

  • 各拮抗筋は活動レベルを交代することで特定の領域の出力方向制御に貢献し、360°全方位にわたって出力方向制御に貢献していることが示唆される

本事業では、3対6筋協調制御理論に基づき、麻痺側上下肢の運動時の単関節筋と二関節筋の出力比率を定量評価し得るシステムを開発することにより、麻痺肢の協調運動能力を改善させる新たな治療法を確立し、脳卒中患者の日常生活能力の向上や入院期間の短縮、医療費の削減を目指す。

2.事業の経過

​1)単関節筋と二関節筋の実効筋力を測定する測定器の開発

  • 2019〜2021年度のJKA補助事業「IOT、AI、協調制御理論によるトレーニング支援システムの開発補助事業」において計算力学研究センター(RCCM)が開発した測定器を脳卒中患者と高齢者用に改良開発した。

  • 具体的には、力覚センサーの感度を最適化するとともに,軽量化して移動しやすくした。

  • 上肢用測定器については、机上に固定する仕様に変更し,持ち運びと計測を容易にした。

  • 下肢用測定器については、起立・歩行が困難な脳卒中患者が使用しやすいよう背もたれ部分を広くし、座面の位置を高くした。

  • 被検者の計測肢位を一定にすることを目的に、足踏み板を45度固定として測定中に回転しない機構に変更したが、足関節に不要なモーメントが生じることにより実測値が安定しないことが判明したため、センサーと足部の固定方法を再改良した。​

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改良前後の実効筋力測定器

​(上図:上使用 下図:下肢用)

​2)ソフトウェアの改良開発

  • 最初に開発したものは被検者の踏力を赤色のベクトルで画面表示し、最大出力と思われるポイントを検者が観察しながらクリックして決定する仕様としていた。

  • しかし、センサー部に生じるノイズにより意図した計測ポイントを抽出できない現象が認められたため、計測時の恣意性を排除することを目的に、計測時間中の最大出力ポイントをコンピューターで自動検出するよう改良した。

  • その結果、計測が安定的に行えるようになった。

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​3)基準値の収集

  • 健常成人、高齢者、脳卒中患者を対象に、上下肢の実効筋力を測定。

3.事業の結果 
(本事業は所属機関と研究実施施設の倫理審査委員会の承認(24-001、2024122301)を得たのち、対象者に文書および口頭にて研究内容を説明し、文書による同意を得て実施されています。)

​1)利き脚と非利き脚の筋協調性(各方向の力と誤差角度)の群間比較

​​【対象】

  • 両下肢に整形外科的既往歴がなく、右脚を利き脚とする健常成人男性30名(年齢25.2±7.1歳、身長172.7±5.7cm、体重65.0±7.4kg)

  • 利き脚はサッカーボールを蹴りやすい側とし、対象者自身より聴取

​​【方法】

  • 両下肢ともに4方向を2回実施し、足底に生じる圧力を計測

  • 各方向の力(出力)と基準線との誤差角度(方向制御)を算出して2回平均値を抽出

  • 利き脚と非利き脚の各値の正規性を確認後、t検定とWilcoxsonの符号付順位検定を併用して比較(α=0.05)

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​​【結果】

  • 各方向への力(利き脚・非利き脚)は、前方向:503.5±197.7・454.5±156.6(p<0.01)、後方向:198.5±60.5・195.7±57.7、上方向:148.3±67.4・120.3±59.1(p<0.05)、下方向:150.5±47.1・144.5±47.9であった。

  • 誤差角度は、前方向:6.6±4.6・7.0±4.3、後方向:7.9±6.5・9.8±5.1(p<0.05)、上方向:10.7±5.6・11.4±5.4、下方向:12.0±5.1・11.6±4.3であった。

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​​【考察】

  • 協調制御理論を用いることで、矢状面に次元削減した実効筋力ベクトルの座標から出力を担う2対2筋と方向制御を担う1対2筋を特定することが可能であり、個々の出力特性を捉えることができる。

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  • ​前方向(出力:e2+f1、方向制御:e3・f3)と上方向(出力:e1+e3、方向制御:e2・f2)の力の差、および、後方(出力:e1+f2、方向制御:e3・f3)の角度差に有意差が認められたことから、当該筋同士を組み合わせる協調性は利き脚において優位性が高いことが示唆された。

  • 背景として、筋断面積や神経支配比、日常生活で使用される頻度等の影響が考えられるが(膝関節と股関節の伸展筋は日常的な鉛直方向の重力負荷に対応して発達したと考えられている )、詳細を検討することは困難であった。

​2)利き脚と非利き脚の筋協調性(各方向の力と誤差角度)の群間比較

​​【方法】

  • 両下肢ともに4方向を2回実施し、足底に生じる圧力を計測

  • 各方向の力(出力)と基準線との誤差角度(方向制御)を算出して2回平均値を抽出

  • 利き脚と非利き脚の各値の正規性を確認後、一元配置分散分析とFriedman検定を併用して比較(α=0.05)

​​【結果】

  • 各方向への力(利き脚・非利き脚)は、両脚とも前方向と他の方向の間、及び、後方向と上下方向の間に有意差が認められた(p<0.01)。

  • 誤差角度は、両脚とも前方向と下方向の間に有意差を認め、利き脚では後方向と下方向の間にも有意差が認められた(p<0.05)。

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​​【考察】

  • 全体的には、上下方向の主動作(実効筋力)と方向制御(誤差角度)は前後方向よりも劣ることが示唆された。

【上方向】 主動作:e1(股屈筋)+f2(膝屈筋)、  方向制御:e3・f3(二関節 屈筋・伸筋)

【下方向】 主動作:f1(股伸筋)+f3(二関節 屈筋)、方向制御:e2・f2(膝伸筋・屈筋)

  • 360°全方位への出力分布図には個人差が認められた。

​3)利き脚と非利き脚の拮抗筋ペアの合力と出力分布特性

​​【方法】

  • 両下肢ともに4方向を2回実施し、足底に生じる圧力を計測

  • 各方向の力(出力)から拮抗筋同士の力の合計値(e1+f1、e2+f2、e3+f3)(N)の平均値を算出

  • 片脚の3値をFriedman検定にて群内比較(α=0.05)

  • 両脚間の同値をt検定とWilcoxsonの符号付順位検定を併用して群間比較(α=0.05)

  • その後、XY座標上に矢状面360°方位の出力分布図を描画し、その形状を視覚的に分析

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​​【結果】

  • 3組の拮抗筋対の力(利き足・非利き足(N))は、e1+f1値:273.9±79.5・256.7±86.0、e2+f2値:458.2±198.6・436.8±159.9、e3+f3値:142.2±96.7・112.2±74.9であった。

  • 群内比較の結果、両下肢とも3値すべての組み合わせで有意差が認められた(p<0.01)。

  • また、3値それぞれの群間比較においては、有意な差は認められなかった。

  • 出力分布図は、前方(X軸の正値)を頂点A、後方(X軸の負値)を頂点Dとする時計回りの六角形ABCDEFを示し、形状には個人差が認められたものの、辺BC・辺EFが最長となる者が多く認められた。

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​​【考察】

  • ​片脚内の拮抗筋ペアの合力の比較については、「膝関節筋(e2+f2)> 股関節筋(e1+f1)> 二関節筋(e3+f3)」となったが、膝関節と股関節の伸展筋は日常的な鉛直方向の重力負荷に対応して発達したと考えられていることから、各筋の生理学的断面積が影響している可能性が考えられる。

  • 両脚間の拮抗筋ペアの合力の比較については、各値に左右差は認められなかったことから、健常成人における利き足・非利き足の別は拮抗筋ペアの合力に影響しないことが示唆される。

  • 実効筋力の合力は、膝関節筋(e2+f2)が最大であったことから、辺BCと辺EFが最長となる者が多く認められたと考えられる。

  • また、形状の差異は、個人の出力特性を反映していると考えられる。

​4)脳卒中患者の例(1例を紹介)

​​【対象】

  • 脳梗塞(延髄) 右片麻痺

  • ​50歳代 女性 42病日 下肢Br.stage Ⅴ

​​【方法】

  • 両下肢ともに4方向を2回実施し、足底に生じる圧力を計測

  • 各方向の力(N)及び基準線との誤差角度の平均値を抽出

  • 介入期は通常の理学療法に開発機器を用いた5分間の運動練習を追加し、コントロール期は通常の理学療法のみ

  • 各期は6日間

​​【結果】

  • 介入期前・介入期後・コントロール期後における4方向への力(N)は、前方向:69.6・90.9・91.2、後方向:76.2・64.9・63.3、上方向:3.3・55.3・52.9、下方向:4.6・41.3・39.3であった。

  • また、その際の誤差角度(°)は、前方向:17.3・8.4・4.1、後方向:15.7・4.9・5.3、上方向:5.7・6.2・14.6、下方向:14.1・9.6・9.8であった。

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​​【考察】

  • 介入期前は上下方向の力の低下が認められたことから、e1とe3、及び、f1とf3ペアの出力低下が特定された。

  • 介入期後に同値が増加し、その後も維持されたことから、トレーニングによって各ペアの筋協調性が改善し、一定の出力増加と学習効果が得られたと考えられる。

  • 一方で、上方向のみ経時的に誤差角度が増加したことから、e1とe3ペアについては精緻な方向制御を両立する協調段階までには至っていないと考えられた。

​5)その他

(1)3次元動作解析装置との同期を可能とした。※下図は歩行(Swing〜IC. LR〜Mst〜Tst.Psw)を抽出したもの。

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(2)脳卒中患者の脳画像解析(Structural Connectivity解析、Functional Connectivity解析)を併用し、筋協調性との関係を分析

   (助成期間終了後も継続してデータ収集中)

4.事業のまとめ(2024年度内に関して)

  • 協調制御理論を用いることで、矢状面に次元削減した実効筋力ベクトルの座標から「主動作」を担う2対2筋と「方向制御」を担う1対2筋を特定することが可能

  • 本事業で開発した計測システムを用いることにより、筋協調性の個人特性を定量的に評価することが可能

  • ​脳卒中患者への臨床応用の可能性として、回復過程における筋協調性の再編成を可視化できる可能性がある

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